5 植物と友達になるその3(個体の追跡調査)

 植物と友達になるために、まず植物の名前を体系づけて覚えましょうと、1で書きました。さらに、植物の標本を作成して、いつでも眺められるようにしましょうと、4で書きました。今回は、1で名前を覚えた植物の日々の変化を見てみることを提案します。

 学校で友達を作る時は、まず名前を覚えることから始まります。その次は毎日、遊びや勉強をとおして時間を共有することによって、友情を深めあうことができますよね。植物とのつきあいもそれに似たものがあると考えています。

 そこで、今回は、我が家の庭に植えたチューリップの球根から芽が出て、花が散るまでの連続写真を撮ることによって、チューリップの生活を垣間見て、チューリップのことを深く知るきっかけにし、さらにそこから何が読み解けるかを実践してみました。
 今回の記録は平成18年1月28日から4月16日までの79日間にわたるものです。では、さっそく見てみましょう。

  
1月28日(1日目)        2月4日(8日目)          2月9日(13日目)
球根の皮を押し上げてきた   球根の皮が風で飛んだ      芽の先端が赤くなった

  
2月11日(15日目)       2月18日(22日目)        2月23日(27日目)
                    第2葉が顔を見せた        第1葉が反ってきた

  
2月25日(29日目)       3月2日(34日目)         3月6日(38日目)
第3葉が顔を見せた

  
3月11日(43日目)       3月16日(48日目)        3月20日(52日目)
第3葉が伸長した         葉が展開してきた

  
3月24日(56日目)       3月26日(58日目)        3月28日(60日目)
花芽が顔を出した         花芽がくっきりしてきた      花芽の先端が赤くなった

  
3月31日(63日目)        4月1日(64日目)        4月16日(79日目)
開花寸前               開花                花が散った

 以上の結果から、いくつかわかることがあると思います。まず、その過程を大きく分けると以下のように推察されます。

@芽の段階:21日間(1〜21日目)
A葉を展開する段階:34日間(22〜55日目)
B花芽を伸長する段階:8日間(56〜63日目)
C開花の段階:14日間(64〜78日目)
D開花終了:(79日目)

 一番長いのは葉を展開する段階、次に芽の段階ということで、その2段階で55日、約2ヶ月間を要しています。そして花芽をわずか8日間という短さで伸長し、花を咲かせているのは14日間、2週間ということがわかりました。

 さらにさかのぼれば、この球根は、昨年の11月に植え付けていますので、芽が出るまでに約3ヶ月かかっています。ということから、「植えてから花を咲かせるまでに約5ヶ月を要し、花を咲かせている期間はわずか2週間」ということがわかりました。「花の命は短くて・・・」という名ぜりふも、こうして定点観測をすることによってデータ的にも裏付けられるのです。

 一花咲かせるためには、長い下積み生活を経験する必要がある・・・、これは植物の世界だけではなく、我々人間社会にも言えることですよね。そんなこともあらためて気づかされた観測でした。ぜひ、みなさんも庭の野草、ベランダの野草で実践してみてはいかがでしょうか。

  
平成18年4月8日(71日目)



4 植物と友達になるその2(植物標本の作成)

 植物と友達になるために、まず植物の名前を体系づけて覚えましょうと、1で書きました。今回は、更にそれを一歩進めて、より積極的に友達になる方法を提案します。それは、植物標本の作成です。植物標本の作成の意義、作成に必要な道具、作成方法について以下に解説します。

(1)植物標本の意義
 植物分類学において、種の比較を詳細に行う際に、近縁の種類の標本を同時に、また、花のない季節に花を、果実のない季節に果実を見ることができる植物標本は、なくてはならないものです。
 また、一般的には、ある地域の植物の記録を後生に残すという意味でも、とても貴重な資料となります。

(2)必要な道具
 ア 植物の採集:はさみ、荷札、ビニール袋(胴乱)、新聞紙、野冊
 イ 標本の作成:ケント紙、ビニール袋、ラベル、紙テープ、のり、防虫剤

(3)作成方法
 ア 植物の採集
 @ 植物の枝葉を新聞紙4つ折り(A3サイズ)大に切り取り、荷札に種名、採集年月日、
  採集場所を記入し、ビニール袋に入れる。
   (その際、葉だけではなく花や果実、草であれば根も一緒に採集するのが第1のポイントです)
 A @の植物を新聞紙に挟み、重ねて野冊に挟み押しつぶし、乾燥させる。
   (その際、葉の裏が一部見えるように枝を折り曲げるのが第2のポイントです)
 B Aの新聞紙はできれば、2〜3日置きに交換し、その際、葉の折れ曲がりなどを修正する。
  期間は季節にもよるが、およそ2〜3週間で乾燥する。
   (新聞紙を交換するたびに、植物をよく観察して、植物と友達になるのが第3のポイントです) 

 イ 標本の作成
 C 乾燥した植物をケント紙の上に置き、紙テープで固定する。
 D ラベルに必要事項を記入し、ケント紙に貼る。
 E 防虫剤を入れ、ビニール袋で密閉する。
   (特に花、果実がある標本は防虫剤を忘れないことが第4のポイントです)

 以上の解説を参考に、ぜひ植物標本の作成に挑戦してみてください。はじめはとまどうかもしれませんが、実践してみると楽しくなってやみつきになってしまうかもしれませんよ。さらに詳しい情報を知りたい方は、「植物の観察と標本の作り方」(ニュー・サイエンス社)を参考にしてください。

   
植物標本作成実習(2004.8.21撮影)            上手にできました(2004.8.21撮影)

 埼玉県森林インストラクター会では、埼玉県都幾川村にある「森林インストラクターの森」に生育している樹木標本の作成に取り組んでいます。上の写真は、標本作成の様子です。今年までの3年間で計31種(同一種の重複を含めると計39枚)の樹木標本を作成しました。みなさん、腕が上達してきています。



3 大切にしたい知恵袋

 読み解き散策をする上で、その地で長く生活されている方々のお話は非常に参考となります。例えば、道ばたに生えている雑草一つとってみても、知らなければそのまま通り過ぎてしまうでしょうが、地元の方にお話を伺うことで、「この草は食べられる」とか、「子供の頃はこの草でこうやって遊んだ」といった情報を得ることができることでしょう。

 今回は、コラム第1回で紹介した「まごころ農園」の夫妻にお聞きした、生活と植物との関わり、「まごころ農園の知恵袋」について、紹介させていただきます。

 「まごころ農園」の夫妻は小さい頃から秩父の山に親しみ、秩父の植物と共に生きてきたことから、暮らしの中で植物を利用することも多かったのです。

 まず、ウグイスカグラの赤い実は甘く、小さい頃は子供たちの格好のおやつだったそうです。一方、マメガキは別名「あまめ」と呼ばれ食用となるのですが、小さい頃は他に何もない時に食べたそうです。同じ野生の果実でもおいしい、おいしくないがあり、昔の子供はちゃんとそれを理解していたことがわかります。

 また、ヤマコウバシは別名「こなしばのき」といい、乾燥した葉を炊き込みご飯にしたり、チガヤの若い穂を食用にしたり、食糧事情のよくなかった時代の救荒食であったことがわかります。

 「まごころ農園の知恵袋」の一端を以下の表に紹介します。

植物名 用途など
イヌタデ 別名「あかまんま」、おままごとで遊んだ
ウグイスカグラ 子供の時のおやつだった
オヤマボクチ 別名「のごんぼう」、端午の節句に葉を草餅にした
カキドオシ 別名「銭草」、子供の時遊んだ
コウゾ 田の畦に植えて、小遣い稼ぎにした
タラノキ 別名「たらっぺ」、山菜の王様
チガヤ 若い穂を食用に用いた
ツノハシバミ 別名「かっちんぐり」、実を食用に用いた
ニガナ 別名「ちちくさ」、白い乳液がでるのでこう呼んでいた
ヌルデ 別名「オッカドの木」、材を箸、木刀に加工した
ハナイカダ 葉を天ぷらにした
ホオノキ 着物の立て木に用いた
マメガキ 別名「あまめ」、他に何もない時に食べた
ヤマコウバシ 別名「こなしばのき」、乾燥した葉を炊き込みご飯にした

 オヤマボクチは端午の節句に草餅にしたという事実は、秩父地方の民俗の一端をうかがい知ることができます。このような知恵袋は後継する若者の減少から、ともすれば途絶えてしまうケースが多いと考えられます。

 このような知恵袋を次代に伝える役目が、我々若者(といっても筆者は今年で34歳!?)にはあるのではないでしょうか?
                         
                       ハナイカダの花は葉の海の上に浮かぶいかだのようです



2 四季の移ろいを感じる

 毎日の通勤、通学。それは時間との戦いで、まわりの景色を見る間もなく、気がつくと「ああ今年ももう残すところあと○○日かあ」と時の早さを感じる方が多いのではないでしょうか?

 でも、我々が気にとめようととめまいとは無関係に、自然は1年のサイクルで四季を刻んでいます。特に日本は温暖湿潤な気候により、春夏秋冬の区別がはっきりしています。そして暦の二十四節気に代表されるように、日本人は生活の中で季節の移ろいを肌で感じ取り、また、時には農作業暦に利用したりと、日々の生活と四季の移り変わりとは密接な関係にあったといえると思います。

 そこで、自然を読む一つとして「四季の移ろいを感じる」ことを提案します。その手法としては、「定点観測」を用います。「定点観測」とは大げさですが、ようはお気に入りの場所を見つけて、例えば月1回その風景を写真で撮影するとか、スケッチするとか、一定期間継続して観察しましょう、ということです。

 今回は、さいたま市の「花と緑の散歩道」で実践した事例を紹介します。「花と緑の散歩道」はJR武蔵浦和駅から別所沼公園を結ぶ長さおよそ1kmの遊歩道で、道の両側にソメイヨシノなどの桜が植栽され、市民の散歩やジョギングコースとなっています。

 この散歩道の入り口を定点として、春、夏、秋、冬と4枚の写真を撮影してみました。すると、春には桜の花が咲き、夏にはアジサイの花が咲き、秋には紅葉が見られ、冬には冬枯れが見られ、と同じ場所でも景色がずいぶん違うことがわかります。

 また、こうして写真を並べてみると、夏、秋の葉が着いているときは後ろにあるJR新幹線・埼京線の高架橋が見えないのに、冬には高架橋がはっきり姿を現しているのに気がつきました。樹木による視覚の遮断効果が見て取れます。仮に桜のかわりにクスノキなどの常緑樹が植えられていたならば、1年をとおして高架橋は見えないということが想像できますよね。

 忙しい毎日だとは思いますが、自分のお気に入りの場所を見つけて、定点観測してみてはいかがでしょうか?

  
春(2004.3.28撮影)                      夏(2004.6.27撮影)
  
秋(2004.11.3撮影)                      冬(2004.12.26撮影)



1 植物と友達になる

 山に登るのは好きだ、森林には興味がある、しかしこれ以上何をしたらいいのか分からない、と思っている方は多いのではないでしょうか。そんな方には、まず、植物と友達になることをおすすめしています。植物と友達になる?

 まず、小学生の頃を思い出してください。新学期、クラス替えでまわりには知らない子ばかり。こんな時、友達をつくるためにまず名前を覚えたのではないでしょうか?

 植物と友達になるはじめの一歩も、名前を覚えることでしょう。しかし、ただがむしゃらに覚えたのでは、相互の関連が分かりません。そこで、似たもの同士を仲間として分類する方法が考えられています。分類の中で最も基本となる単位は「種」です。さらによく似た種が集まって「属」となるといった具合に階級づけがされています。

 また、植物の名前の付け方にも工夫がされています。例に挙げた「ヤマザクラ」は「和名」と呼ばれ、日本でしか通用しません。そこで、万国共通の「学名」が使用されています。カスミザクラの学名は「Prunus jamasakura」といいます。Prunusが属名で、jamasakuraが種小名で、両者でヤマザクラを表しています。この方法を二命名法といい、植物学者のリンネが考案したものです。

 植物を採集し、進化の過程を考案しつつ分類し、命名する。根気のいるこの仕事は植物分類学と呼ばれる分野になります。

 以上、少々難しくなってしまいましたが、「読み解き散策」の手法の1つには、植物と友達になることが挙げられます。人間同士、友達になればお互い気心が知れて、親しみがわきますよね。それは人間と植物でも同じだと思います。今度の休日、植物と友達になりに出かけてみませんか?

植物界
種子植物門
亜門 被子植物亜門
双子葉植物綱
バラ目
亜目 バラ亜目
バラ科
亜科 サクラ亜科
サクラ属
亜属 サクラ亜属
ヤマザクラ

            
植物の分類群                ヤマザクラ(バラ科)「Prunus jamasakura」

 植物と友達になるための道具として、植物図鑑はとても役立ちます。各出版社から様々な図鑑が出ていますので、自分にあった図鑑を探し出すのがポイントです。ここでは、筆者が実際によく用いている図鑑の中の主なものを紹介します。

 1 フィールド版 日本の野生植物 木本編  平凡社
 2 フィールド版 日本の野生植物 草本編  平凡社
 3 山渓ハンディ図鑑 樹に咲く花@〜B  山と渓谷社
 4 山渓ハンディ図鑑 山に咲く花、野に咲く花  山と渓谷社
 5 葉でわかる樹木、冬芽でわかる落葉樹  信濃毎日新聞社
 6 検索入門 樹木@〜A  保育社


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