第27回 岩田先生を偲んで
去る令和6年7月17日に、元全国・埼玉森林インストラクター会会長の岩田洋先生が満90歳であの世へ旅立たれました。謹んで故人のご冥福をお祈りいたします。
その歩みを振り返りますと、先生は昭和8年生まれ、昭和32年に東京教育大学(現筑波大学)農学部卒業後、昭和33年から昭和54年まで埼玉県立秩父農工高等学校林学科の教諭を務め、平成6年に埼玉県立小鹿野高等学校校長を最後に定年退職されました。
平成4年に農林水産大臣認定の「森林インストラクター」の資格を取得すると、埼玉森林インストラクター会の設立に尽力され、平成6年から平成22年まで同会の会長を務められました。この間、平成14年から平成22年までは全国会の会長も歴任されました。
これらの功績がたたえられ、平成27年には「第8回本多静六賞」を受賞されています。ここに同賞受賞時の活動報告を基に先生の功績を振り返ってみたいと思います。
先生の森林・林業に関わる功績は@林業教育、A森林インストラクター活動、Bふるさとの森づくりの、大きく3点が挙げられます。
まず林業教育について紹介しますと、昭和33年、埼玉県立秩父農工高等学校林業科教論として着任されました。毎年、演習林実習でスギ、ヒノキを約3,000本植樹してきたそうです。春、植樹に先立って生徒に、心をこめて苗木を植え、100%の活着率をめざすよう指導し、植樹した木とは、夏の下刈りで対面します。厳冬期には、枝打ち、地拵えを行い、毎年、卒業記念誌「年輪」を発行します。文中には実習を通してクラスの連帯意識が生まれ、昼休みの一時を通して心の交流が育まれた等々が脈々と流れており、先生は、「木を植えることは、気(心)を植えることである」ということを学んだといいます。また、文部省の教科書「森林土木」、「林業機械」の編集にあたり、全国的視野が持てるようになったとも語っています。
次に森林インストラクターについてです。「高度経済成長期、森林の守り手はいなくなり、森林は荒廃し、森林は私達の生活を支えてくれる多くの働きと恩恵をもたらしてくれることを私達は忘れてしまった」と嘆く先生は、平成4年にインストラクターに合格すると、飯能市の親子森林教室、県民の森の森林教室等で活動されました。秩父市大滝中津川、本多博士寄贈の「彩の国ふれあいの森」友の会を結成、地元住民と市民の交流親睦を図りました。また、全国会会長として、当地で全国研修会も開催しました。インストラクターとしての活動経験をまとめ「緑からの伝言」を執筆されました。
3点目のふるさとの森づくりですが、平成14年ときがわ町に1.4haの伐採地を借地し、埼玉会会員の交流と研修の場とされました。平成16年に地元小学生と記念植樹をして以降、教室授業と「ふるさとの森づくり」をテーマに、巨樹になる広葉樹を植樹、現在も継続中です。また、長瀞町宝登山の伐採地を広葉樹林へと植樹を進めており、ヤマツツジの再生をめざしています。埼玉会では、それぞれの活動記録をまとめられました。
結びとして、「植えた木は天空をめざして成長し、人生の「師表」ともなる。これからは会員とともに、植えた木々の成長を見守っていきたい。」として活動報告を締めくくられました。
私と先生との出会いは、平成8年、埼玉県庁入庁と同じ年にインストラクター試験に合格し、埼玉会に入会してからで、県民の森の自然観察会やふるさとの森づくり等でご一緒させていただきました。校長を退官したばかりの先生が、二十歳そこそこのペーペーの私にも、森林を愛する者同士の同じ目線で接していただき、その後も30年近いお付き合いをさせていただくこととなりました。先生のユーモアあふれる自然解説が懐かしく思い起こされます。
岩田先生、どうもありがとうございました。安らかにお眠りください。
第26回 全国森林インストラクター会創立20周年記念論文
平成24年2月26日の日曜日、東京都文京区のプラザ・フォレストで、全国森林インストラクター会創立20周年記念式典が開催され、私も出席してきました。
式典からさかのぼること4ヶ月、全国会が創立20周年を記念して、記念論文を募集していました。テーマは、全国会が一般社団法人に移行することから、「法人化10年後の全国森林インストラクター会」で、全国会の活動に対する提言というものでした。せっかくの機会なので、普段漠然と考えていたことを文章にまとめてみようと思いたち、応募することとしました。
そして記念式典の5日前、全国会の方からお電話をいただき、応募した論文が最優秀賞を受賞したので、記念式典に出席し、5分間スピーチしてほしいとの依頼を受けました。実は当日会場に行くまで「どっきり」にひっかかっているのかとも思いましたが、ありがたいことに「どっきり」ではありませんでした。当日、全国会会長から本物の賞状をいただきました。
全国会会長から表彰 5分間のスピーチ
現在、当日のスピーチを無事終えてホッとしているところです。以下に受賞した論文を掲載いたしますので、御笑覧いただければ幸いです。
テーマ 「自然と人間との共生」を目指して
〜法人化10年後までの全国森林インストラクター会活動に対する提言〜
サマリー(概略)
東日本大震災、原発事故を教訓に、「自然と人間との共生」を実現するため、今後、森林インストラクターの果たすべき役割は大きいものがある。法人化10年後までの全国森林インストラクター会が実施すべき活動として、@森林インストラクター技術研修所の設置、A森林インストラクター活動需要・供給システムの構築、B森林インストラクター研究所の設置、の3つの提言を行う。
はじめに
平成23年は、我が国において歴史に残る年となるに間違いない。3月11日に発生した東日本大震災と、その後の原子力発電所事故は、我が国の将来の世代に大きな不安とつけを残す結果となってしまった。
人間にとって本当に必要な文明、科学技術とは何なのか、あらためて問われることとなった。その答えのひとつに「自然と人間との共生」というキーワードがはずせないということは、多くの国民の方々の共通の見解ではないだろうか。
「自然と人間との共生」を実現するために、我々森林インストラクターの果たすべき役割はたいへん大きなものがあると考えられる。そこで、法人化10年後までの全国森林インストラクター会が実施すべき活動について提言を行う。
課題と目指すべき姿
全国森林インストラクター会はいまや会員数1500名を超える大きな組織となっている。ホームページや会報において全国会や各支部の活動の一端を知ることができるが、1500名のマンパワーが一般の方々にどれだけ認知され、活動の成果がどれだけ上がっているのかは未知数といえる。また、1500名の森林インストラクターもその実力、活動の実態に大きな幅があるものと考えられる。
そこで、法人化10年後の全国森林インストラクター会の目指すべき姿を概観する。
@会員の実力が伯仲し、全国どこでの活動でも一定レベル以上のサービス(解説、技術指導など)が参加者に提供できる。
Aリアルタイムで全国各地の森林インストラクターの需要と供給の情報が共有化され、全国各地で間断なくサービス(解説、技術指導など)を提供できる。
B全国各地の森林インストラクターの収集した情報を共有化し、温暖化など地球規模での環境変化の科学的なデータを積み上げ、政府等に提言を行うことができる。
提言
@森林インストラクター技術研修所の設置
森林インストラクター技術研修所を設置し、全国会の会員を対象とした研修(1週間単位など)を実施し、森林インストラクターのレベルを一定以上に保つ。また、森林インストラクター資格取得希望者に対する研修も併せて実施する。研修を通じて会員相互の情報交換が図られ、有益な情報が各支部にフィードバックされることが期待できる。
A森林インストラクター活動需要・供給システムの構築
全国各地の森林インストラクターの長期・短期の需要、例えば長期では、○○県民の森の自然ガイド2名(通年)など、短期では、○○県植樹祭記念観察会(○年○月○日)などの情報を集約化して全国会会員に提供するとともに、全国会会員の長期・短期の活動希望(供給)情報を収集し、両者のマッチングを行うシステムの開発・運用を行う。
これにより、需要と供給のミスマッチを解消し、全国会会員は全国各地での活動機会が得られるとともに、全国各地で質の高いサービスが提供可能となる。
B森林インストラクター研究所の設置
全国会会員を中心とした研究員からなる研究所を設置し、以下のような調査・研究、提言等を行う。
・全国各地のフェノロジー情報の収集と解析
全国会会員から、サクラの開花、セミの初鳴きなどのフェノロジー(生物季節)情報を収集・解析し、地球温暖化の進行のバックデータとし、政府等に温暖化防止対策の実施を提言するなどの活動が可能となる。
・全国各地の病中獣害、気象災害情報の収集と解析
全国会会員から、松枯れ、ナラ枯れなど森林病虫害、シカ害など獣害、山火事など気象災害情報を収集し、森林の保全・整備を図るためのバックデータとし、野生動物の適正な密度管理、気象災害に強い森林づくりなどについて提言を行うことが可能となる。
まとめ
「自然と人間との共生」を実現するために、今後10年、森林インストラクターの社会的存在意義は益々高まることが予想される。社会のニーズを正確につかみ、求められる行動ができるように、全国森林インストラクター会を核として、1500名の会員がそれぞれ質の高い活動を展開する必要が求められている。
全国森林インストラクター会と、ひとりひとりの森林インストラクターの活動が、我が国の将来を明るいものにできるという信念を持って活動していきたい。