第20回 国立市公民館自然観察会を振り返って

 「景観の街」、「学問の街」というのが、筆者が自然観察会を担当する前に、国立市に対して持っていたイメージです。そして、2年間、計4回の自然観察会を実施した結果、次のようなイメージも持つことができました。
 「イチョウ・サクラ並木の街」、「段丘の街」、「湧水の街」、「街道の街」、「東京の米所」、「市民意識の高い街」、「活気のある商店街」、そして「今も自然が残る街」です。
 4回の観察会のメインテーマは「国立の自然再発見」としました。これは市民のみなさんに、日常生活ではつい見過ごしてしまう自分たちが住む街「国立」の地域・自然の素晴らしさをあらためて知ってもらうこと。そして「国立」をさらに好きになってもらいたいとの気持ちからでした。

 【第1回】平成16年6月20日 国立駅〜谷保駅
 まだ6月というのに日差しが強く真夏のような暑さの日曜日でした。国立駅から谷保駅までの、主に市街地に残る自然を読み解きながら歩きました。一橋大学のキャンパスではヒマラヤスギの年輪を数えたり、木が切られる前の写真と見比べて景観がどのように変わったかなどを観察しました。
 市役所では、ヤマモモの赤い実がたわわに実っていて、参加者みんなで甘酸っぱい果実を味わいました。観察は目だけでするものではなく、耳、鼻、口、手など五感を使ってしましょうとお話しさせていただきました。でもこの時ばかりはみなさん聴覚よりも味覚が敏感だったようです。
  
ヒマラヤスギ伐採前(2003.12.10撮影)          ヒマラヤスギ伐採後(2005.12.10撮影)

 【第2回】平成16年12月12日 谷保駅〜矢川駅
 小雨が降る寒い日曜日でしたが多くの参加者に集まっていただきました。
 谷保駅を出発して常磐の清水、城山、ママ下湧水と、段丘崖と湧水に残る自然を読み解きながら散策しました。
城山の手前、刈り取られた稲わらが積まれた田んぼの前で、農林業センサスのデータを基に説明しました。「国立市には水田が19ヘクタールあり、これは東京都では第7位です。みなさんぜひ覚えて下さい。国立は東京の米所です。」その時のみなさんの笑い声と驚きの声が今でも印象に残っています。

 【第3回】平成17年6月4日 矢川駅〜谷保駅 
 段丘崖と湧水に残された自然をめぐると題して、第2回のコースを季節を変えて、逆コースで歩きました。
 ママ下湧水では、温度計で水温を測りました。当日の気温は22.5度、府中用水の水温は21度でした。さて、ママ下湧水の水温はというと、17度でした。みなさん湧水に手を入れると「冷たい」とびっくりしていました。 
 観察会の前後にみなさんに三択の質問をしました。@国立には豊かな自然が残っているAまあまあ残っているB残っていない。まず観察会の前の回答数は@9人、A8人、B0人でした。そして観察会後の回答数は@13人、A5人、B0人と、Aが減少して@が増加する結果となりました。観察会に参加される方はやはり意識が高い方と思います。本当はBと回答する方に観察会に参加していただければ、もっと有意義な事業になるのではないでしょうか。

 【第4回】平成17年12月10日 国立駅〜谷保駅
 市街地で冬を越す植物の観察と題して、第1回のコースを季節を変えて歩きました。
 一橋大学のキャンパスでは、みなさんに「冬」を探していただきました。アカマツの球果、樹木の冬芽、サザンカの花弁など、多くの冬を観察することができました。
 大学の脇道を歩いた後、みなさんの服についているものを集めてみました。すると、イノコヅチ、ミズヒキ、チジミザサといった動物散布型の種子がたくさん集まりました。人間と植物の助け合いを感じることができたことと思います。

 4回の観察会を通じて、一貫してお伝えしたかったこと。実際には舌足らずでうまく説明できていないと思い、最後に記述させていただきます。「国立には豊かな自然がたくさん残っています。慌ただしい日常生活ではつい見過ごしてしまいがちです。天気のよい日には国立の自然・文化・地域を読み解き散策してください。きっと国立のよさを再発見できます。そうすれば国立に対する愛着、誇りがより深まります。」
 この2年間、筆者自身もたいへん学ばさせていただきました。みなさんありがとうございました。最後に観察会にお声がけいただき、企画・運営とたいへんお世話になりました国立市公民館の山崎千鶴子さんに深くお礼申し上げます。

※今回のコラムは国立市公民館便りの原稿を再構成して掲載させていただきました。
  
国立は東京の米所(2005.7.30撮影)              城山の紅葉(2004.12.12撮影)



第19回 赤城山(地蔵岳)に登る

 平成17年8月13日、お盆の帰省ラッシュを避けるため、朝5時にさいたまを出発し、国道17号線を一路北を目指しました。天気はあいにくの雨でしたが、早朝のため交通量も少なく、あっという間に利根川を越え、群馬県に入りました。目的地は、あの国定忠治で名高い「赤城山」です。毎年夏休みの恒例となった家族での山登り、その3年目の記録です。
 朝からの雨は降ったり止んだりのくり返しでしたが、午後から回復するとの天気予報を信じて、お昼前の11時に登山口の八丁峠を出発しました。
 
赤城山(地蔵岳)(2005.8.13撮影、以下同じ)

 登りはじめは笹原の中に渡された木製の階段で、一気に高度を上げました。3才になった息子に手を引かれ、「よいしょ、よいしょ」と登りました。笹原を過ぎると、ミズナラやダケカンバなどからなる落葉広葉樹林の中を歩き、さらに亜高山性の高茎草原へと周囲の植生が変化していきました。草原にはヤマオダマキやマツムシソウ、ハクサンフウロなどの可憐な野草が数多く花を咲かせていました。(花の画像は最後にまとめてお見せします)
 山頂から続く尾根にでるとガレ場となり、足下が不安定となりました。石につまづかないよう注意を払い、一歩一歩、歩を進めました。そして、コースタイムでは30分の登りでしたが、約45分で無事地蔵岳の山頂に到着しました。なんと、息子は足場の危険なところを除き、ほぼ完登してしまいました。
   

 地蔵岳の標高は1679m、天気がよければ北側に大沼を中心に赤城山をぐるっと一回りできる眺望が広がるとともに、南側には関東平野を望むことができます。しかし、残念ながらガスが流れ、思うような眺望は得られませんでしたが、時折ガスの切れ間から眼下に大沼、そして関東平野の一部も眺めることができました。
 山頂で軽くお菓子で腹ごしらえをした後、下山の途に着きました。ここで息子は「眠くなっちゃったー、おんぶー」ということで、父母の背で眠りにつきながらの下山となりました。
 

 下ること約20分、無事登山口に戻ることができました。昼食を食べた後、覚満淵の木道を1周し、赤城山を後にして宿に向かいました。
 下りこそ寝てはしまいましたが、昨年は2割程度しか歩けなかったことを考えると、この1年間の子供の成長をあらためて感じさせてくれました。来年はもっと楽しい山登りができるのではないかと、今から楽しみにしています。
 最後に、今回の山登りで行き会った植物(一部昆虫)の画像をお楽しみください。
  
ヤマホタルブクロ            シモツケ                  コバギボウシ
  
ツリガネニンジン            ハクサンフウロ              ヤマオダマキ
  
トモエシオガマ              キオン                   アオイトトンボ



第18回 「森林インストラクターの森」で下刈り

 梅雨真っ盛りの平成17年7月2日、埼玉県都幾川村の「森林インストラクターの森」で、平成17年度森づくり事業の3回目として、下刈りと植生調査が行われました。当日は梅雨の中休みで晴れ間がのぞく天候に恵まれ、埼玉森林インストラクター会のメンバー11人が参加しました。
 「森林インストラクターの森」は、コラム第6回で紹介した「仁志の森」が仮称だったため、その後正式に名付けられたもので、埼玉森林インストラクター会が目指す理想の森づくりを実践するフィールドとなっています。現地では造林、下刈り、地拵えの実践のほか、間伐、枝打ちの研修や、植生調査の実施、植物標本の作成、シカ害防止対策の研究など、幅広い活動を展開しています。今回はその中で、下刈りと植生調査が行われました。

 まず元営林署勤務で副会長の小林さんによる下刈り作業の安全講習が行われ、その後、下刈り作業をスタートさせました。傾斜の比較的緩やかな斜面下部では自動刈り払い機が用いられ、斜面上部では手鎌を用いて、作業が進められました。
   
自動刈り払い機(2005.7.2撮影)               手鎌による作業(2005.7.2撮影)

 作業は10時30分頃開始され、途中、暫時休憩を挟み、12時頃までの1時間半続けられました。その結果、多少の刈り残しが出てしまいましたが、それは午後、植生調査の後、実施することとなりました。
 昼食時には、近くにヒメコウゾの実が熟しており、みんなでその甘みを味わいました。詳しくは山の植物第14回をご覧ください。
 昼食後、小林さんの指導により、鎌とぎを行いました。鎌の刃を置くL字型の木製台と、鎌の柄を置く3本足の木製台を用い、とぎ方をわかりやすく解説していただきました。その後、各自で鎌とぎを実習し、午後の作業に備えました。
   
下刈り実施後(2005.7.2撮影)                鎌とぎ実習(2005.7.2撮影)

 次に、筆者が講師となり、植生調査のやり方、解析の仕方について講義させていただきました。その後、ヒノキを植栽した後下刈りを実施していない草本群落の固定プロット(面積:2m×2m)で、植生調査の演習を行いました。プロットを囲むテープを修復した後、プロット内に出現する植物の種名、高さ、被度を計測し、調査票に記入していきました。このプロットでの調査は3年目を迎え、その間に勢力を落とした種、勢力をのばした種が見られ、されに継続することによっておもしろいデータが得られるものと考えています。
   
プロットの復元(2005.7.2撮影)                植生調査演習(2005.7.2撮影)

 植生調査実施後、午前中刈り残した下草を刈り、午後3時頃、無事作業を終えました。下刈りは重労働ですが、実施後は造林地がきれいになったことが視覚的に実感できるため、作業後の充実感は大きいものがあります。また、汗をたくさんかいたので、「今晩のビールはおいしいよ」をキーワードに、各自帰路に着きました。みなさん、お疲れ様でした。




第17回 春を味わう

 それは、「ねえ、つくしんぼ探しに行こうよ」と2才半の息子の一言から始まりました。平成17年4月2日の土曜日、親子3人でさいたま市郊外の荒川の土手にツクシを探しに探検に出かけました。
 土手の斜面をよく見ながら登ると、「つくしんぼ、あったよ」と、早速ツクシを発見しました。すると、土手には芽吹いたばかりのヨモギの若葉もたくさん生えていました。そこで、今夜は春の野草を食べよう!ということになり、ツクシとヨモギを採り始めました。
   
つくしあったよ(2005.4.2撮影)                 つくしんぼ

 しばらくすると息子は土手をおしりで滑る遊びに夢中になり、つくしんぼどころではなくなりました。親はというと、父はツクシを、母はヨモギを、せっせとつみ採りました。
 ひとしきり土手を満喫した後、土手の下に降りました。するとそこに、もう一つの春の野草を発見しました。それは、ノビルです。子供の頃よく食べた懐かしい野草です。ツクシ、ヨモギ、ノビルとも、一晩で食べられる適量を採取して家路につきました。
   
ヨモギ(キク科)の若葉                      ノビル(ユリ科)の球根

 家に帰って昼寝をした後、春の野草の調理にとりかかりました。
 @ノビルは水でよく洗い、ひげ根を取り除いて皿に盛り、味噌を添えて出来上がりです。
 Aツクシははかまをとってお湯で茎がやわらかくなるまで煮ます。
   長さを切りそろえ、しょう油とみりんを加えて煮詰めて、佃煮の出来上がりです。
 Bヨモギは土を落とし、重曹を加えたお湯でさっとゆで、ミキサーで砕きます。
   団子のもと(上新粉)に水とヨモギを加えてよく練り、団子状に丸めます。
   熱湯に丸めた団子を入れて、浮き上がったら、ヨモギ団子の出来上がりです。
   
団子を丸める                           ノビル、ツクシの佃煮、ヨモギ団子

 「いただきまーす」。採取した野草の量がちょっと少なかったのか、出来上がった料理も上品な量になりました。味もとても上品でした。野草料理は量を食べるのではなく、野の趣を味わうことができる程度が適量だと思います。ということは、採取する野草は必要最小限にとどめ、根っこごと掘り採らない、群落すべてを絶やさないなど、注意したいたものです。
 外で春を感じ、家で春を味わった、春づくしの一日でした。




第16回 森林インストラクターと森林療法

 近年、我が国においても森の癒し効果、いわゆる森林療法が注目され、森林・林業分野のみならず、医療・福祉分野においても様々な取組が始まってきています。そこで、我々森林インストラクターと森林療法のかかわりについて、何が期待されているのか、何ができるのか、といった点を中心に、私見を述べさせていただきたいと思います。

 森林インストラクターは「森林の利用者に、森林や林業に関する知識を与え、森林の案内や森林内での野外活動の指導を行う」役割を担っています。野外活動の中に森林浴が含まれることに異論を持つ方は少ないと思います。
 一方、森林療法は、後述の森林療法研究会によると「森林浴をはじめとした森林レクリエーションや森林内の地形を活かした歩行リハビリテーション、樹木や林産物を利用する作業療法、心理面での散策カウンセリングやグループアプローチなど、森林環境を利用して五感機能を使う全人的なセラピー」と定義されています。

 では、世論はどうかというと、内閣府が昨年12月に実施した「森と生活に関する世論調査」によると、森林浴や心身のリフレッシュといった森林の健康面での効果を期待した回答が26%と前回比4ポイントの増加となり、森の癒し効果に対するニーズが高まってきています。
 また、林野庁が平成14年度にまとめた「高齢社会における森林空間の利用に関する調査結果」によると、「医療・福祉分野において森林空間を利用した健康の維持・管理等を行う活動を森林療法(フォレストセラピー)、その担い手となる人材を森林療法士(フォレストセラピスト)と呼称する。森林療法士については、理学療法士や森林インストラクターなど医療と森林分野の既存の技術者に対して、両分野の基礎的な知識・技術を習得させることにより育成する」ことが提言されています。

 以上のことから、我々森林インストラクターの活動の一つとして森林療法を実践することは十分可能であるばかりか、社会的にはむしろ積極的に取り組むことを期待されているといっても過言ではないと思います。

 では、我々に何ができるかということですが、明日から森林療法を実践しなさい、といわれても当然無理があります。そこで、まず、自己研鑽の一環として森林療法の知識を得ることがはじめの一歩と考えています。 
  私も会員ですが、東海女子大学専任講師の上原巌さんが世話人を務める「森林療法究会」http://www.janis.or.jp/users/bigrock/ があります。ホームページから様々な情報を得ることができ、また、研究会に参加すれば、森林療法の様々なプログラムを体験・習得することができます。 
  また、今年、林野庁は厚生労働省の協力を得て、産学官連携による「森林セラピー研究会」を立ち上げ、健康増進に向けた森林の活用、森林療法にかかる医学的な課題の解明等を図ることとされています。「全林協・森の情報館」 http://www.ringyou.or.jp/ で、森林療法関連図書と同時に、情報を得ることができます。

 さて、いよいよ実践となると、我々指導者の他に、利用者(高齢者、知的障害者、幼児・・)、フィールドとなる森林、活動プログラムが必要となります。全容の把握はなされていないと思いますが、全国各地には、すでに炭焼きやしいたけ栽培等の作業療法を取り入れた福祉施設、森林内の歩行リハビリテーションを取り入れた医療施設等、森林療法を実践している施設があります。例えば、我々の各都道府県支部と施設が提携して森林療法を実践する、といった活動も可能ではないかと考えています。

 最後になりますが、森林療法は森林・林業分野の枠に収まらないもので、医療・福祉分野との連携が不可欠です。さらに、森の癒し効果の科学的根拠の解明も急務の課題です。我々森林インストラクターも、これら2つの課題に深くかかわり、森林療法の社会的認知度のアップ、社会的地位の付与に貢献できるよう、取り組んでいきたいものです。
   
外秩父の山並み                        ミズナラ林

 今回のコラムは、全国インストラクター会発行の「森林インストラクター会報」2004.5(No.61)号に掲載された文章を再掲載したものです。


第26回〜第30回へ


第21回〜第25回へ


第11回〜第15回へ


第6回〜第10回へ


第1回〜第5回へ


コラム目次へ